特集

亀と神話 — 世界を背負う者たち

インドでは世界を、中国では天を、北米では大地を。人類は世界のあちこちで、いちばん重いものを亀に背負わせてきました。

世界は亀の背中の上 — インド

ヒンドゥー神話で、維持神ヴィシュヌは大亀クールマに姿を変え、神々が不死の霊薬を得るための「乳海攪拌」で、攪拌棒にされたマンダラ山を海に沈まないよう背中で支えました。世界でいちばん重い仕事を、亀が引き受けたのです。

「世界は巨大な亀の上に載っている」という宇宙観はインドから広く知られ、英語圏の哲学ジョーク「turtles all the way down(下までずっと亀)」の元ネタにもなりました(ことば辞典へ)。

天を支えた亀 — 中国

中国の創世神話では、天を支える柱が折れて世界が傾いたとき、女神・女媧(じょか)が大亀「鼇(ごう)」の四本の足を切り、天の四隅の柱にしたと伝えられます。ここでも亀は、世界の重さを引き受ける係でした。

北を守る玄武、甲羅を焼いて占う亀卜、そして石碑を背負う亀の台座。この台座の霊獣は「贔屓(ひき)」といい——日本語の「ご贔屓(ひいき)」と同じ字です。重いものを喜んで背負う亀の名前が、「肩入れする」という意味につながったとする説もあります。

石碑を背負う亀の像(亀趺)
石碑を背負う亀「贔屓」(中国・南京 霊谷寺) ・ 写真: Vmenkov, Wikimedia Commons (CC BY-SA 3.0)

海の彼方への案内人 — 日本

日本の亀は、背負うより「連れていく」役でした。浦島太郎の亀は、助けてくれた若者を海の彼方の竜宮へ案内します。この物語の原型は万葉集や丹後国風土記まで遡る、日本最古級のファンタジーです。

不老不死の仙境・蓬莱山を背負う亀、「鶴は千年、亀は万年」の長寿信仰——日本の亀神話は、海の彼方の理想郷と長い時間の物語に結びついています(読み物へ)。

大地そのものになった亀 — 北アメリカ

北米先住民の多くの部族に、「大地は大亀の背中の上につくられた」という創世神話が伝わります。世界を覆う水の中、動物たちが海底の泥を持ち上げ、大亀の甲羅の上に置いたことで大地が生まれた——。

この神話から、北アメリカ大陸はいまも「タートル・アイランド(亀の島)」と呼ばれます。先住民の人々にとって、亀は神話の登場人物ではなく、足元の大地そのものなのです。

守り神ホヌ — ポリネシア

ハワイをはじめポリネシアの島々で、ウミガメは特別な存在です。ハワイには、家族や個人を守る祖霊「アウマクア」としてホヌ(アオウミガメ)を敬う伝統があり、岩絵にも亀が刻まれてきました。

大海原を正確に渡り、生まれた島に帰ってくるウミガメは、星を頼りに航海したポリネシアの民にとって、最高の航海者への敬意そのものだったのかもしれません。

竪琴になった亀 — ギリシャ

ギリシャ神話では、生まれたばかりの神ヘルメスが亀の甲羅に弦を張り、最初の竪琴(リラ)を発明しました。西洋音楽の起源神話の中心に、亀の甲羅があるのです。

おまけにもうひとつ。悲劇作家アイスキュロスは、ワシが空から落とした亀が頭に当たって世を去った——という伝説の持ち主です。世界を背負い、楽器になり、ときに凶器にもなる。神話の中の亀は、実に多忙です。

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